遠距離に住んでいる親の介護の話題を切り出す方法とは？

男性Aさんは50代後半です。80代半ばの母親がいます。父親はすでに他界、男2人兄弟ですが、それぞれ独立、結婚し、別居しています。兄弟の関係はあまりよくなく、ほとんど交流はありません。Aさん自身も30代後半から独立し、その後結婚、母親とは長い間離れて暮らしていました。

母親の施設への入所を考え始めたのは、脳梗塞を患った母親の介護が必要になったからです。しばらくは病院で過ごしていましたが、とても一人では母親が暮らせないと判断したこと、またAさん自身が母親と遠距離の場所に住んでおり、介護できる人もいなかったため、いつまでも病院にいることもできず、施設を探し始めました。

施設を探すことも大変なことの１つでしたが、それ以上に大変だったのは母親に介護施設の入所を説得することの難しさでした。ここでは、遠距離介護について、介護の始め方と切り出し方の方法などを説明していきます。

遠距離介護とは

遠距離介護は、離れて暮らす高齢の両親が自立した生活を送れるように、子供がサポートすることです。「両親のそばにいて面倒をみてあげたい」という気持ちがあったとしても、親に介護が必要な時期は、多くの場合、子供も働き盛りの年齢になります。

自分自身が家庭を持っている場合、仕事と家庭、介護のすべてをうまくこなすのは相当な負担になるとともに、仕事を辞めたりすると収入源が絶たれてしまい、親亡き後に生活保護になってしまうケースも少なくありません。できるだけ介護離職しないで済む方法を検討することが大切です。

遠距離介護のメリットとデメリット

遠距離介護はデメリットばかりではありません。実は、メリットもあります。どのようなメリットやデメリットがあるのか、見ていきましょう。

遠距離介護のメリット

まず、引っ越す必要がないので、これは大きなメリットになります。親が引っ越すにしても、子供が引っ越すにしても、どちらもその場所で生活をしているので、その地域を離れるとなると大きな変更が必要になってきます。

特に、介護する子供が仕事を辞めて介護離職することは、再就職が難しい年代の人にとって大きなリスクとなりかねません。

また、施設を利用するときに遠距離介護のケースでは、優先順位が高くなる傾向が見られます。入所待機者が飽和状態の地域も多くなっているので、少しでも早く入所できるのはおおきなメリットになるでしょう。

遠距離介護のデメリット

遠距離介護のデメリットは、費用がかかることです。施設や介護にかかる費用は、それなりにかかりますが、介護保険の範囲内でまかなえる部分もあります。しかし、遠距離介護にはそれに加えて、交通費などが大きくかかります。新幹線や飛行機代などでの移動が必要な地域であれば、大きな出費になります。

また、毎日様子を見ることができないので、事故が起きたり容体が急変したりしたときに早急な対応ができないことがあります。

できるだけ自宅で自立した生活を慣れた自宅で過ごさせてあげたいという気持ちがあっても、介護度が重くなってくる親を見ていると、ひとり暮らしを続けることは難しいかな～と感じることもあるでしょう。親が自宅での一人暮らしの限界が見え始めたとき、選択肢の一つとなるのが施設への入居です。でも、親にどのように切り出せばよいのでしょうか。

「介護で迷惑をかけたくない」と言っていた親の本音とは？

介護現場をよく知るケアマネージャーによると、「介護が必要になったら、子どもたちや家族には迷惑をかけたくないから、施設の世話になる。」と言っていた人でも、実際に介護が必要になったときに自分からすすんで施設に入る人はほとんどいないそうです。

施設入所の話が出ると、9割以上の人は自宅で暮らすことを希望するそうです。介護される立場になっても親本人にとって一番安心できる場所は自宅ですし、時代が変化してきたとはいえ、家の主体は親である自分であり、子は面倒を見るものという意識もあるようです。

介護が必要になるかもしれないという考えがあるのであれば、まずは帰省の回数を少し増やして親とのコミュニケーションを深めることが大切です。親の介護で抱えそうな課題を理解しておき、その対応策をあらかじめ想定しておくと対応しやすくなるでしょう。

そのためにも、親がどのような考えや気持ちを持っているのかを知ることが大切です。親の健康状態に気を配っていたとしても、いきなり「施設に入ってほしい」と言うことは、親である自分たちよりも子どもたち自身の生活を優先していたり、自分たちが見捨てられるという被害者意識に陥ってしまうことが少なくありません。また、質問攻めすると、親のプライドを傷つけて不安にさせてしまう可能性もあります。

みんな悩んでいる、施設への入所を親にどう切り出し、納得してもらうか

では、どのように親に話を切り出せば良いのでしょうか。

まずは、改まって介護について話すのではなく、何気ない会話の中から、これからの将来について聞くことが話をスムーズに進める方法となります。例えば、「家で、一人で暮らせなくなったときにどうしたい？地元の施設に入る？私の家の近くに引っ越したい？」とか、「介護に必要なお金はどうやって工面したらいいかな？」などです。

現実的にできるかできないかはひとまずおいて、親の率直な意見を聞くことが大切です。そして、介護の話題を話しやすいものにしておくことも必要です。下手に関係をこじらせてしまい、介護や将来の話題について話しにくくなるような雰囲気をつくらないように気をつけましょう。

ちなみに親が施設にはいるのを嫌がる理由として、施設がどんなところで、どのような扱いを受けるのかわからない不安があるようです。これを取り除くためには、施設での介護を体験し、慣れてもらうことも工夫できる点です。

とはいっても、いきなり施設にはいるのは、かなりハードルが高くなります。まずは、デイサービス（通所介護）やショートステイ（短期入所生活介護）を利用する機会を作り、その利用体験から施設に対する抵抗感を少なくしていくことが受け入れやすくすることができるでしょう。

大切なのは気持ちに寄り添うこと

いきなり施設にはいるのではなく、デイサービスなら行ってくれるかと思いますが、実は、このデイサービスも行きたくないと拒絶する人は少なくありません。ここで、無理に入所させてしまうと、親の気持ちにそぐわないまま施設に入れたことで、子供も精神的に負い目を抱え込んでしまうことがあります。そうならないためにも、時間をかけて粘り強く話をして、介護施設というところを受け入れてもらうようにする必要があります。

認知症になっても施設へ入所することの拒否を示す高齢者は少なくありません。認知症になって対応が難しい言動をしたり、会話が成立しなくなっても、家から離れることになることはわかりますし、むしろ敏感に反応し、泣き叫んだり暴れたりということもあります。

そして、もう1つ大切なのは、家族の都合から話を切り出さないことです。例えば、「仕事があって面倒を見れないから、デイサービスに行ってほしい」とか、「疲れているので、たまにはショートステイに行って休ませてほしい」といった言い方は、親にとって傷つく原因になります。このような言葉は、介護される親にとっては、自分が家族に迷惑をかけている厄介者であると感じたり、プライドが傷つけられてしまうことになるからです。

それではどのように伝えればよいのでしょうか。

大事なのは、主体があくまで要介護者である親であることを心がけて話すことです。「仕事の関係で、どうしてもこの日はそばにいられない。自分がいない時に、不自由な思いや寂しい思いをさせたくない」などです。親のためを思って、という話の方向性と低姿勢を見せることで、本人の気持ちを和らげることにつながります。

また、お試しで行ってみた施設の様子や感想を聞くことも必要です。もし、嫌なことがあったというなら、どんなところが嫌だったのかを聞き、そのような施設には行かせないことや、ケアマネとも相談することを、親の気持ちに寄り添って考えることができるでしょう。このような対応は一度や二度でできるものではないかもしれません。

しかし、根気よく話し続けることで、施設に対する抵抗感を少しずつなくしていくことができるかもしれません。

施設よりもハードルがさがる老健（介護老人保健施設）の入所

いきなりの介護施設への入所は、親としても自分がはいることに拒否感も大きいですが、老健（介護老人保健施設）は病院と介護施設の中間的施設で医師や看護師もいて医療処置が充実しているため、入所することに心理的なハードルがさがるようです。

老健（介護老人保健施設）とは、介護施設とどのように違うのでしょうか。老健では、リハビリなどを行い体の不調を改善して、自宅に戻ることを目的とした施設のため、体の機能面を良くして自宅で暮らすという前向きな目標を持ちやすくなります。

また、高齢、要介護になってくれば、何らかの体調などの不調はあるものですし、施設と違って病院であれば、入ることに抵抗感は少なくなります。「元気になって戻ってきてほしい」と説明することによって、介護施設に入所することのような拒否感は少なくなるかもしれません。

老健（介護老人保健施設）の入所要件

老健（介護老人保健施設）の入所対象者は原則として65歳以上で要介護1以上（40～64歳でも特定疾病に認定された場合は入所可能）となっています。老健（介護老人保健施設）も入所待ちはありますが、特別養護老人ホームと比べると、待機者は少なくなります。「医療」という面を強調することによって、施設入所の拒絶感は薄くなるでしょう。

在宅介護に限界が来てから施設への入所を考えるのは、本人にも家族にとっても辛い思いをすることが多くなりがちです。時間の余裕があれば、気持ちの上でも、選択肢も増やせることができますが、ギリギリの状況では選択肢が限られてしまうこともよくあります。

まずは、親とのコミュニケーションを上手に取りながら、親の介護が必要になることも視野に入れて、親と子供の話し合いの場を持ちながら、環境づくりをしていくようにするとよいでしょう。

Ａさんもはじめは施設入所を考えましたが、親が自宅で住みたいという意思を変えることができず、なかなか進展しませんでした。しかし、一人暮らしをしていくことが難しいことがはっきりとしたために、最終的には老健（介護老人保健施設）への入所を決めました。しかし、親は「自宅に帰る」という希望を持ち続けていたようです。

Aさん自身は、老健（介護老人保健施設）に入所することが決まって、日々の生活ができているか、ご飯は食べているか、倒れていないかなどの日常生活の心配をしなくてもホッとできるようになりました。また、日々、ちょっとしたことがあるとかかってくるTELでドキッとすることも減って、安心した生活が送れているそうです。

まとめ

遠距離に住んでいる親の介護施設の入所を検討すると、お金のこと、家のことなどいろいろな心配事や悩みが山積みになってしまいます。しかし、一番の悩みは親が拒否しているにもかかわらず、施設に入れざるを得ないことです。

そして、施設に入れてしまったことで罪悪感を感じる人は少なくありません。それぞれのご家族の状況もあり、選択肢が施設の入所しかない場合もあると思いますが、施設への入所を親にどう切り出し、納得してもらうかを事前に考えておき、いざというときに参考にしてください。